返答


殺人鬼化交流 ...03

返答

「ねーえ!シャンプー切れたんだけどー!聞いてるー?」

風呂場から湯気を外に連れ出しながら問いかけたものの、返事はない。
家の主がいない。だが、別の気配がする。
”それ”は、弱りきっており、もぞり、と鈍く這っている、そんな気がする。

またか。
感想は至って簡素なもので、それ以外は特に思い浮かばなかったのだから、仕方がない。

ふかふかのバスタオルで体の水滴を拭き取り、突飛な色をしたその髪を、ハンドタオルで事足りるだろう、と乾かす気もないまま、乱暴にタオルごとかき回しながら家主を探すことにした。

「アヂアー?」
名を呼ぶが、やはり、どこにも居ない。どの部屋にも、居ない。代わりに、先ほどの感じた気配を視認した。

今度の"男"は、随分とがっしりした骨格だな、と観察をする。
そう、"それ"とは人間であり、男であった。正確に言えば、両手首を手錠で拘束され、太いパイプに繋がれているだけの男だ。これだけの情報でも、彼の不幸な状況が飲み込めるだろう。"監禁されているのだ"、と。
と、言っても彼はまだ良い環境なのではないだろうか。自分の知る限りでは、"至れり尽くせり"な状態である。何故ならば、食事は日に三度、きちんとしたものを与えられるし、排泄だって、家主が居て、声を上げればきちんとさせてくれる。風呂だって、回数は限られているものの、可能な限りは面倒を見てくれる。求人情報ではないが、こんな良い条件の"監禁"は、そうないだろう。理不尽な八つ当たりによる暴力はないし、妙な性癖に付き合わされることもない。至って、"人間らしい暮らし"が約束された監禁である。

おっと、勘違いしてもらっては困るが、決してこれは、自分の行ったものではない。先ほどから呼びかけている"家主"の、そう、ある意味"性癖"なのだ。

「…あん…た…誰…だ…」

喉だけを使い、床から途切れ途切れに問われる。
へえ、さすがは"監禁のエキスパート様"だ。きちんと管理が行き届いている。大抵、拉致監禁後には、対象は喉が潰れるほどに叫び、使い物にならなくなってしまうのだ。"管理者"がいない間は、ひたすらに助けを求めるし、極度の緊張状態が続くため、胃が食べ物を受け付けず、吐き続けてしまう者もいる。肉体的に、一番最初にダメージを受けやすいのが、"喉"なのだ。
腹から声は出ていないものの、喉の状態は良好なようだ。今度コツでも聞こう、と頭のメモに刻む。

「誰って聞かれてもね。それよりさ、アヂア知らない?」

彼はよく、この部屋で対象を管理する。専用の部屋らしいが、造りが変わっている。
窓がないのだ。正確には、窓ガラスがない。代わりに、鉄格子が重々しく並んでいる。その間から、外を覗いてみる。

「おっかしーなー。買い物かなー?」

なるほど、外が僅かに見える。対象は、拘束されてるとはいえ、立つことも出来るし、姿勢を変えることも、少しの範囲なら部屋の中を移動することもできる。勿論、窓にも近づける。外気にも触れられるだろう。ただし、身をすべて"外"に出すことだけは、不可能だが。一縷の光が目の前にちらついているというのに、手も伸ばせるというのに、届かない。
こんな残酷なことはないだろう。そう思いながら、その窓を背にした。

「い…いないのか?アイツは…!」
目がゆっくりと見開かれる。口角も久しぶりに上げたらしく、固まりかけた頬がひび割れる。

ああ、神様、と十字でも切りそうな勢いで涙を零した。

「なあ、頼むよアンタ…な、なんでもする!…金ならあるだけ…いやどんな額でも一生かけて…!」

"これ"は今まさに、蜘蛛の糸を掴もうとしているのだ。他の何を投げ打ってでも。
だが、その糸は、蜘蛛の糸でもなんでもなかった。

そう、垂らしてさえ、いなかったのだから。

ため息が出る。もう少し笑えることでも言えないものだろうか。
本日二度目の、"またか"という感想を述べることになるとは。

「あんたらってさー、ほんと、つまんないんだよねぇ…」
「…え」

表情は鈍く固り、解せぬ面持ちで、自分の言葉の続きを黙って聞いている。

「こっから先が面白いのに、ちょーどいいところでセーブできなくて、いーっつも、つまんねー作業からやらされる、うっぜーセーブポイントみたいだよ、あんたらのその言葉」
「…は?な、何を」

本日二度目、と言ったが、日で換算しなければ、何度この言葉を投げただろうか。数えるのが飽きるほどに、だ。

だから、自分はいつも、同じ返答をすることにしているのだ。





「アタシにとってお前らなんて、どーだっていい。どうだっていいのさ。テレビでどこでどのくらい死んだとか流れてて、アンタはいちいち涙を流してたか?そんなことねえだろ?『へえ、そう。世の中物騒ね』とか『紛争地帯は大変ね』とか適当なこと言って次のチャンネル回したろ?違うのか?アタシはそうさ。そうする。誰だってそうする。わざわざ駆けつけて、身を粉にして、ヒーロー気取りのバカ面下げて、"どこぞの監禁癖のある野郎から救い出す"なんてこと、する奴いると思うか?」

立ち上がりかけた膝は、崩れ落ち、肩が震えていた。恐怖か、怒りかは、知らないが。

「だーいじょうぶ。"アイツ"は優しい男さ。無理やりケツ穴にぶっ込んだりもしねえし、スプラッタ好きのサイコ野郎って訳でもねえ。奥様方が好きな、飾るだけでお洒落に見える観葉植物みたいに、あんたのこと、大切にしてくれるよ」

項垂れた顔を持ち上げ、頬擦りと耳打ちをして、ドアを閉めた。歩み始めた頃には、廊下に漏れる小さな嗚咽と、叫喚が響いた。


駄目じゃないか、主人から注いでもらった"水分"を、出しちゃあ。



お借りした殺人鬼化

あいだちゃん宅アヂアくん →(BULLfight

アヂアくんの本命は監禁するって設定が激しく萌えてたので、小説アンド断片漫画描かせていただきました。

あれ!?おかしいな交流なのにアヂアくんとあんまり絡んでねえぞ!ってことでおまけ

ちなみにひと仕事帰りに血なまぐさいのでシャワー借りただけの流れ。sowは裸族。