陰りの太陽


knight SS...1

陰りの太陽

「聞こえてんだよ」

放課後、空月は女生徒数人の前に立ちはだかっていた。
今日の夕飯は何にしよう。近所のスーパーで安売りになると、友人であり、そこの店員でもあるクロノスから情報を得て、ワクワクしていた筈だった。
いつもの彼であれば、所属している執行部の事務処理をしている頃合いだったが、これでも読んでおけ、と分厚い資料を持たされて帰らされた。『お前が居ても、何も進まない』という直属の先輩からのふんだんに含まれた嫌みを汲み取れず、今日は早く帰って夕飯をゆっくり作れるぞ、などと能天気なことを考えていた。そして意気揚々と主でもあり、同居人の聖夜の元に駆けていったのだ。まるで帰路を共にする恋人のような気分であり、彼は益々浮かれるのだが、そこに水を差したのは、西校舎側の女生徒達であった。

「ねえ、御覧になって」
「あれが例の新しいペット?」
「ご存じかしら?綾織さんって、今アレと一緒に暮らしているって言うじゃない?しかも使用人も居ない家に」
「まあ…品の無い…ナイトと同じ家に住むなんて…」
「はしたないわよねぇ」

当人達に聞かせるような声量での内緒話は、空月を怒りに駆り立てるには充分であった。そして、何のつもりだ、と女生徒達に問いただすこととなったのだ。

「空月、何してる。行くぞ」
噂の中心であるはずの聖夜は、通りすがりの者のように声をかけ、スタスタと先へ進んでしまった。空月はその無関心さに驚き、また、怒りを覚えた。

「な、おい!だってコイツらが!」
納得がいかぬ、と女生徒達を指差すが、今度は一瞥もない。命拾いしたなと言わんばかりに彼女らを睨み、聖夜を追いかける。

「貴様の友人から貰ったと言うこの紙切れ…この数字は値段か?これは安いのか?それに商品の配置があちこちにあって少々見づらいな…これは宣伝としては効果がある配置なのか?」
スーパーのチラシをくるくると回し、睨めっこをする。しかし、話しかけられた空月は、フンと鼻を鳴らし、そっぽを向いた。
やれやれ、と休日テーマパークに連れて行って貰えない子供あやす様な表情で、新聞よろしくチラシを畳む。

「なんだ、拗ねているのか」
「だって…アイツらが悪いだろあんなの」
「そんなことは分かっている」
では、何故!と鼻息を荒くする。

「なんで、と言われてもな…ではあのまま対峙してどうするつもりだったのだ」
「どうって…ギャフン!と言わせるんだよ!」
「…空月」
ピタリと立ち止まり、振り返る。

「まさか言葉そのままの意味では…」
「違ぇよ!!」
「では具体的に、どうするのだ。どうやってそのギャフンと言わせるのだ」
ええと、と口を金魚のようにパクパクさせるその姿は、まさに彼の言わせようとしている、ギャフンであった。

「お、お前達は間違ってるー!とか」
「間違ったことは言ってない。現に私達は共に暮らしている」
「じゃあ…はしたねぇのはテメェらだー!とか」
「感性は人それぞれだ」
「ああ言えばこう言う!」
やり場のない怒りを拳に込め、上下に振り回す。

「...空月。貴様が庇えば今度は私がそのようにナイトに仕込んでいる、と言うだろうあの者達は」
「はぁああ!?なんだそれ!じゃあどうしたら―」
「だから、なにもしない事だ。空月、貴様の優しさというものは、大事な事だが、時に余計なお世話でもある」
憤怒により矛先を自身に変えると思っていたが、意外にも、彼は胸をぎゅっと抑えていた。

「あー...今の...あー」
「なんだハッキリ言ったらどうだ」
「グサッと来たわ…」
「悪かった。時に真実は残酷なもので―」
「え?さらに傷つけに来る?すげぇなお前尊敬するわ」
呆れたように笑う彼は、珍しく大人っぽく、苦味を飲み込む笑顔をしていた。

「昔さ、仲が良かったあっくんって奴が居てよー」
「アックン?変わった名前だな」
「あだ名な。本名は...なんだっけアツシだかアキラだったか...忘れたな」
「名前も覚えてないのにあだ名は覚えているのか」
「ガキの頃の友達なんてそんなもんだろ」
「済まない...幼少期から友人が居たことがなく、そういったことには疎いんだ」
「されげなく俺の昔話より悲惨そうな要素言わないでくれねえか?俺のほろ苦い過去が薄れるだろ」
「重ねて済まない」


あっくん。クラスの人気者で、体も大きく、スポーツも出来て、いつも面白いことを言ってクラスメイトを笑わせていた。そんな人気者と名簿順の席が近く、空月のことを「ツッキー」と呼び、保育園の頃から仲が良かった。空月は彼のことが大好きで、彼のような楽しい人になりたい、そんな羨望の眼差しを常に向けていた。
しかし、小学三年生になった頃、空月はあっくんの身長を軽々と越えてしまっていた。「次のしんたいそくてーでは負けねーからな!」と息巻いていたあっくんだったが、空月の知る限り、彼が自身を越すことは今後二度と訪れないことを、知る由もない。

空月としては、例え身長を越した所で、あっくんには到底叶わない、と思っていた。しかし、成長過程の少年にありがちな幻想であることを知ったのは、体育の授業中であった。それは、秋に行われる運動会の選抜リレーの選手を選ぶ大事な瞬間であった。特に何も考えず、もしも母ちゃんが運動会に来れたら、褒められるかもしれない。その程度の褒美を目当てに、全力で走った。気付けば、普段話さないような女子達も含め、ほぼクラスメイトの全員が自分を取り囲んでいたのだ。

「スゴイ!参宮くん!こんな早かったんだ!」
「ねえ!全員リレーもアンカーやってよ!」
「お前今まで手抜いてたのかよー!」
そんなことを口々に言っているのだ。そう、空月はクラスの人気者である、あっくんを身長と同じように、軽く越えてしまったのだ。その時は、自分が色々な人に褒められていることと、皆に頼りにされていることに、高揚し、クラクラしてしまいそうなほど、顔が真っ赤になった。しかし、次の瞬間、高い歓声に混ざった中に、水に墨汁が染み渡るような心地を覚えた。

「デカイ奴はいいよな」

その日以来、あっくんは空月のことを無視した。


「貴様の体格ならば、容易なことだな」
「まー負けちまったのが俺ってーのも、正直ムカついたんだろうなー」
「子分の貴様に負けたのならば、プライドもあったものではなかろう」
「誰が子分だ」
「それが今生の別れか?アックンとは」
「いや死んでねえしあっくん。実は続きがあってよ」


月日が経ち、空月は小学5年生になった。相変わらず、あっくんとの距離は縮まらず、家事を手伝わなければならないこともあり、さらに疎遠になった。ところがある日、転機が訪れる。始業式が終わり、早めの下校を許された生徒は、何をしよう、と浮かれていた。当然、空月も例に漏れず、今日は買い物や夕飯作りまでなら遊べる、と胸を膨らませていた。下校が早いこともあり、たまたまあっくんを含めた数人と帰路を共にした。距離は離れていても、久しぶりのあっくんとの帰り道、空月は何かきっかけはないものかと悩んでいた。すると、あっくんが声を上げる。

「じゃんけんしよーぜ!じゃーんけーん」
慌てて手を出す。いつもなら、『最初はぐー』の流れなので、いつも通り、グーを出した。しかし、空月以外は、パーを出している。

「...え?」
「はい、ツッキーの負けー!最初はぐーなんて言ってねえもんな」
確かにあっくんの言う通りだ。そんな些細な戯れさえも嬉しく、深くは考えなかった。昔と同じように、『ツッキー』と呼んでくれたことも嬉しかったのだ。

「じゃあ、ツッキー、ランドセル持って」
あっくん以外もランドセルを降ろし始める。

「え?...皆の?」
「だってそのジャンケンだもん」
「そ、そっか...」
その時の正確な人数は把握していないが、5、6人は居たと記憶している。

「みんなの分、ちゃんと家に届けろよな!オレら公園行くから!」
「...ぼ、僕も...行っちゃダメ...?」
「全員の届けてからならいいよ」
全員分を届け終わる頃には、きっと買い物に行かねばならない時間だ。

「でも...僕買い物が...」
「えー!?ツッキーって付き合いわりー!」
「ご、ごめん...」
「ジャンケン負けたくせに」
「......」
ジャンケンに負けたのも自分。買い物に行かねばならないのも、彼らには関係のない話。分かってはいるものの、目頭が熱くなり、瞬きをしたら零れそうな程に、水膜を張っていた。

歯切れの悪い空月を置いて行こう、とあっくんが号令し、走り始める友人達。数人が短い悲鳴をあげる。通行人にぶつかってしまったようだ。

「空月...サン?」
幼い頃から居候として共に暮らす男、嵐だ。そういえば、今日は早番だった気がする。同級生のランドセルを持たされ、半泣きの空月を呆然と見つめていた。こんな恥ずかしい場面を見られてしまったことに焦り、必死で歯を食いしばった。

「何...してんスか?」
「......」
答えられるはずもない。声を出せば、そのまま流れてしまいそうな涙を堪えることしか出来なかった。ところが、一番焦るはずのあっくんが、声を上げる。

「俺たち、こーゆーゲームしてんだよ。おっさん。なー?みんな!」
嵐の風貌に恐れおののき、口を開こうとしない同級生達は、小さな声で賛同した。

「ツッキーだって楽しんでるもん。なー?」
視線が集まる。嵐には知られたくない。きっと心配する。母ちゃんだって悲しむかもしれない。あっくんともまた仲良くしたい。空月は答えた。

「...うん」
噛み締めた唇をなるべく上げ、膝の震えを見えない様に、ランドセルで隠した。

「そう、...なんスか?」
「...うん。そうだよ」
「ほらーツッキーだってそう言ってるじゃん」
嵐と目を合わせず、あっくんに強く引っ張られるままに、その場を去ろうとする。しかし、ある爆音で全員がビクリとその場を跳ねた。土煙が舞う。振り返れば、塀が崩れていた。風が吹き、土煙が晴れると、そこにはまさに鬼の形相の嵐が居た。

「“俺”ぁな、学はねぇけどよぉ...大切な空月サンが嫌がってることぐれぇ分かる...それによぉ、俺ぁテメェらみてぇな陰険なことする奴が、」
あっくんの襟首を掴み、大地に響くほどの低音で怒鳴った。

「でぇっきれーなんだよ!!」




「嵐は普段すげーフワフワしてて、優しい奴なんだけど、あんな怒った嵐見たことなくてよー。正直漏れるかと思ったぜ」
「年下に大人気のない怒り方をするのだなその者は」
「うん。俺もそう思う。本気で子供に怒ってる大人って初めて見たわ。近所の人が来なかったどうなってたことか…。あーその頃かな。いや、それより前かな?覚えてねえけど、一帆が近所に引っ越してきて、つるんでたんだよ」
「カズホ…」
聖夜は一度、出会っていた人物である。空月の幼馴染であることも知っていた。そのために名を繰り返したのだが、そんなことは知らない空月はさらに説明を加えた。

「あー、この一帆ってのが、なんだ?幼馴染みたいな奴でさ。こいつがさー、なんつーか大人しそうな顔して女ったらしだし、性格は最悪だしで、もう最低なんだよ」
「……そうなのか」
前情報がなくとも、少し話しただけでも伝わるほどの性根の悪さ。しかし、聖夜は大して興味のない振りをした。"出会っている"という事実を説明することは、事態をややこしくしてしまうように思えたからだ。

「この一帆ってやつがさ、まーた可愛くねえ小学生でよ」


当時、小学5年生。小学生ながらも、色気づき、恋仲になる者も一部居た。しかし、全体で見れば数は少ない。その中に常に入っていたのが、一帆だった。取りわけ顔が良いという訳でもなく、背も高くなければ頭が良いということもなかったが、この頃既に秀でていたことと言えば、早熟な精神であった。
故に、休み時間は常に女生徒に囲まれ、男子生徒はその一歩外にいた。もちろん、男子生徒の枠には空月も含まれていたが、その日は違った。

遠慮がちに、少し良いか、と尋ねる。この子達とおしゃべりをするのに忙しい、という一帆のいつもの冗談も、余裕のない引きつった笑みで返す空月。勘の良い一帆が異変に気付くには十分であった。

「教科書を忘れたから貸して欲しい?」
「う、うん…。社会の教科書…」
「寝る前にいつも忘れ物ないか確認してる空月が?」
「…うん。昨日は…眠くて…忘れちゃって…」
「ふーん…ねえ、本当に忘れちゃったのか、僕が探してあげるよ!」
「いいよ!本当にないんだってば!」
ふざけて教室へ向かおうとする一帆を珍しく、大声で引き止める。

事の次第をほぼ把握しつつあった一帆は、足早に教室へ移動し、忘れたはずの空月の教科書を広げ、声高に状況をクラス中に知らせた。

「うわっ!何これひっどーい!空月くん、誰にやられたのー?」
忘れ物をしたことがなかった空月が、"忘れたので貸して欲しい"と頼んだ理由、それは、読むことの出来ないほどに破られ、大きく書き殴られた罵詈讒謗のせいであった。
事態を把握したクラスメイト達は、彼らの周囲を取り囲んだ。

「ほんとだ…ひっど…」
「先生に言おうよ…かわいそう」
「これいつからなの?今日だよね?」
「昨日も授業あったもんね、今日だよ」
「ねえ、この字、あっくんの字っぽくない?」

ビクリと肩が跳ねたのは、名を挙げられた本人と、被害を受けた空月。生徒だけが集まり、思考は自然と犯人探しに傾き、当時は覚えていなかったが、今思えば、彼の名を挙げたのは、別クラスで字の癖など知るはずもない、一帆だったように思える。
いじめの現場に立ち会った興奮により、周囲は冷静な判断を失っていた。

「そういえば、前参宮くんのこと無視してるの見たことある…」
「私も!」
「確かにあっくんの字に似てるよねこれ…」
「まだ運動会のこと根に持ってるの?」
「幼稚〜」

字を見た瞬間、空月は犯人に心当たりがあった。あったからこそ、内密に事を運ぼうとしたが、あえなく失敗に終わった。名を挙げられた本人は、顔を真っ赤にしながら、自分ではない、と言い張り、証拠を出せ、の一点張りをした。あまりの彼の狼狽ぶりに、周囲は彼の行為であるという確信を抱きながらも粗末な言い分に呆れ返っている時であった。

「ちが…違うよ!」
誰よりも大きな声でそれを遮ったのは、他でもない、空月であった。最も庇う可能性のない人物からの擁護により、教室はしん、と静まり返った。

「なんで?なんでそう思うの?」
見たこともないほどに真面目な、しかし少々呆れている一帆が問いただす。

「あ、あの…字も…あっくんの字に…似てない…と思う…し」
「それだけ?クラスのみんなは似てるって言ってるよ」
「ぼ、僕は…そうは…思わない…そんな、似てるからって…それだけで疑うのは…かわいそうだよ…あっくんが…」
その言葉が出るや否や、取り囲んでいたギャラリーから短い悲鳴が聞こえ、気付いた頃には、空月は一撃を頬に受けていた。

予想だにしなかったその相手に驚き、打撃のせいではなく、心的なショックにより、その場に座り込んだ。それは、真っ赤にした顔、血走った眼からは涙が流れていたあっくんの姿であった。

「お前の…お前のそういう…―」
そこから先は、聞こえなかった。止めようとする周りの喧騒にかき消されたのか、本当は聞こえていたが、思い出そうとしていないのか。今でもそれは分からなかった。



「空月ってさ、あっくんだっけ?あいつの何がそんなにいいの?」
教室へ戻る勇気がなかったため、怪我を理由に早退をする空月の後ろを、プラプラとだるそうにジュースを飲みながらついてくる一帆が聞いた。友達が心配だし、自分は近所に住んでいるから、という理由で彼も早退していた。この時は気遣ってくれていると思っていたが、これも今思えば、サボるための口実だったのでは、と疑っている。

「あっくんは…面白いし、人気者だし…すごく、すごく…」
その先の言葉が出てこなかった。それは、ショックのせいだった。衝撃の理由は、教科書へのいたずらや、暴力を振るわれたことではなかった。あんなにも憧れていた人物の取り乱した姿のせいであった。仲の良かった頃、こんな風になりたい、と羨望のまなざしを向けた面影は、今はもう、どこにも残っていなかった、という事実が言葉を詰まらせたのだ。

今更になって、涙がボロボロと零れ落ち、帰路を濡らす。

声を殺し、しかし嗚咽が漏れてしまうほどの号泣をしていた友人に、一帆は横でジュースを飲み干し、一言、呟いた。

「嫌いな人がいない空月にはわかんないかもだけどさ、やさしさの使いどころ、もう少し考えた方がいいよ」




「って言うんだよ。な?可愛くねえ小学生だろ?」
「どの程度が平均的な精神年齢かは不明だが、他の者よりは、特にお前とはかなり差があるように感じるな」
「俺が平均的なんだよ!」
「…そうなのか。それで?そのアックンとはどうなったのだ?」
本当にそうだろうか、という疑いの表情のまま、先を促す聖夜。

「えーと…引越したんだっけか…いや、別の中学に行ったんだったかな…関わりはなくなったっつーかお互い避けてたっつーか…この後のことはあんま覚えてねえな…」
覚えていないのか、覚えるほどの関わりがないほどに疎遠な関係になったのか、それは分からなかった。それほどに、彼に関する記憶を今の今まで抑圧しており、話の一部は、先の聖夜の指摘によって呼び起こされたほんの一部の記憶なのである。

「ま、お前にさっき言われてさ、『あ〜、俺ってあの時から変わってね〜』ってショックを受けた訳だよ」
「それは…済まない。私はただ事実を述べたつもりだったが、まさか貴様が過去にそのような失態を演じているとは知らず…配慮が足りていなかったな…」
「大丈夫…お前のその、謝るついでに俺をさらに傷つける言い方にも慣れてきたぜ」
「む?どこだ?どの言葉で傷がついたのだ?貴様は常人より繊細すぎるところがあるな…私はまだ貴様のそういう所に不慣れで…」
「おっけー!わかったわかった!分かったからもうそこで止めろ!」
これ以上傷つけられては体がもたない、と大げさに中断させる。

「しかし…貴様のそういった善意は少し羨ましいとも感じるよ」
「ん?」
奇妙なものに出会ったかのように見つめる。

「私は…気の利いたことが言えない質だからな…。不格好なりにも相手を思い遣ることの出来るお前の優しさは大切なことだと思うよ。こればかりは、持って生まれた資質だ。どんな状況であろうと、自分に向けられた優しさの貴重さ、そのアックンとやらも、今は理解しているかもしれん」
珍しく褒めている聖夜に対し、雨でも降りそうだ、と火照る顔を背け、数歩先を急いで歩く空月。


前を歩く大きな背中に似合わぬ思慮深かさ。自分にもかつて存在したかもしれないその感情は、彼の憧れた友人の面影と同様、姿かたちもなかった。
しかし、それで良い。

大きな背中は太陽を遮り、より大きな影を落とす。その影の中に、一人の魔女がすっぽりと収まっていた。

空月のほろ苦昔話でした。
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