The second promised


knight ...03

The second promised

あなたは

健やかなる時も、病めるときも

ともに励まし、ともに敬い

生涯の伴侶として、生涯の愛を

ここに誓いますか。



The second promised

「で・けぇー…」

よう、俺だ。空月だ。
なんでお前がそんな台詞を吐くんだ、とツッこまれそうだから、一応答えておく。別に身長とか、そんなん関係ねぇけどな。
…え?誰がエッフェル塔だって!?!?
ふざけんなバカ!

「そんな阿呆のような顔をしてないで、さっさと入れ」
「誰がアホだ!」
「…?ならば間抜け─」
「違う!!そこが気に入らないワケじゃ─…あー、もういい」

えーと、なんだっけ?ドコまで話したっけ?
…あ、そうだ。

そうそう、俺、今聖夜の家に来てんだ。
んで、城か、ってくらいデカいから、あんなこと言ってたワケ。
なんでかよく分かんねぇけど、家に報告を兼ねて、俺を紹介するらしい。





…うん。なんか、アレだ。

『娘さんを僕に下さい』

こらぁぁあぁああぁあ!!!!黙らんか妄想!

紹介ったって、そのっ…あ、アレだ!!まだ付き合うとかそんなんじゃ─…って、
まあ、その…キスは、した、けども。


アレはカウントか!?
なんかコッチじゃアイサツ代わりだったりしたら、舞い上がってる俺恥ずくね!?
いや、いやいやいやいやいや。
べっつに、舞い上がってるとかそんなんじゃねぇし?
い、家がでけぇから、緊張してるだけだし!
ほら、だってメイドっつーか使用人っぽいヤツらとかいるし!!


「お前ってけっこうお嬢サマなのな」
「…そうか?」
だって、ズラッと並んだ花道が出来てて、「お帰りなさいませ聖夜お嬢様」なんて声を揃えて言ってるんだから、間違いなくそうだ。



「姉様がたは?」
「もうお着きです。奥に居られます」
「そうか。おい、…おい空月」
「あ"?」
「私は先に姉様たちに、話を通しておく。お前は少しばかり待っていろ」
「…………ハ?だって、俺を紹介するんだろ?」

その本人を抜きに(わざわざ来たというのに)紹介もなにもない。


「事情が事情だから、な。此奴を、客間に通してやってくれ」
事情とは何か、という問いも、畏まりました、の一言で消えてしまう。

「おい!!聖夜!─」
背中に投げられる呼びかけも、今の聖夜には、耳に入らなかった。"どうやって、事の顛末を伝えるべきか"ということについて、以外頭にはなかったから。





「姉様、兄様。急にお呼びして申し訳ありませんでした」
開口一番、出たのは、謝罪の言葉。返って来たのは、気品ある、しなやかな物腰を連想させる柔らかい声だった。

「嫌だわ、聖夜さん。可愛い妹の為ですもの。飛んで来ますわ。それに珍しいではありませんか。貴女から話したいことがあるだなんて、」

ねえ、と相向かいの席に同意を求める。それに応えたのは、声ではなく、椅子が後ろに飛ぶ音だった。

「聖夜!待ちくたびれぞ!」




「天万家の集会にも中々顔を出さないし、次はいつ会えるものかと落胆していたら、直接俺に相談があるなどと吉報が届いて…俺は嬉涙が出てぐふぅッ!?!?」
演説を思わせるような、朗々とした声を奇声に変えたのは、横に座していた小柄な少女だった。

「別にお前だけを呼んだんじゃねぇだろ。勝手に勘違いして舞い上がるなよヴェリー。うざい」
「ルル!!貴様ッ…痛いではないか!顎が割れたらどうしてくれるのだ!!」

蹴った主に噛みつくように吠えれば、当の本人はさも母親を嫌がる思春期の少年の如く、 「いいじゃん。そんな顎、割れちまえばいんだよ。そしたら、ケツ顎になってダンディーになるよ。つーかヴェリーめんどい」
あしらう。

そんな痴話喧嘩染みた会話を止めたのは、先程の気品ある声。

「お止めなさい二人とも。ヴェルディも、いい加減"聖夜離れ"をするべきですね」
「なッ…俺ですか!?メビウス姉様!」
そんな馬鹿な、と机を叩く。

「ルルもルルです」
ほらやっぱり、ニヤリとした顔を自慢気に横にやる。が、

「ヴェルディに割れた顎は似合いませんわ」
きっぱり、はっきり、断言する。


「い、いや…その…姉様…今はそういう話ではなく─」
「似合う似合わないじゃなくてさ、ヴェリーは貫禄がねぇんだもん」
「だからって、割れた顎というのもどうかと思うわ。せめてお髭を生やすとか、」
「髭?コイツが?メビウス姉ちゃん本気でゆってんの?コイツがそんなもん生えるワケねぇじゃん。男性ホルモンなさすぎなんだよコイツ。だからこんなナヨナヨ─」
「あら、なら私が薬を調合して差し上げますわ」
ねぇ、とメビウスの後ろに位置する背の高い女性に同意を求める。

「メビウス様…今は聖夜お嬢様の相談を聞く為に来たのです。論点がずれています」
ハ、とこちらの存在を思い出す。


「嫌だわ…私ったら、いつもそうなのよ」
「そのことだけどさー。なんなワケ?アタシ的に、わざわざ会でもなんでもないのに来たくもない場所に呼び出してまで話すことなの?」
「…実は─」
「なんということを言うのだルル!!いくらお前でも許さないぞ!可愛い妹が兄を頼って何が悪い!?」
「だったらテメェが来いっつってんの。なんでアタシらがこっちに来てやんなきゃなんねぇんだよめんどくせぇな」
「それはただ貴様が面倒臭いだけだろう!!来たくもないならば、今すぐ帰れ!」
はぁ、と盛大なため息を、頬杖した口から吐く。

「仕方ねぇじゃん?あんたの"ナイト"なんだから」
不本意ながら、と肩を上げ、手を左右に広げる。

「こっ…こっ…このっ…」
言いたいことが、山ほどあるが、口から上手く出ないようで、ただただ震える指だけをルルに向ける。

どうしたものか、と聖夜は一呼吸の後、ついに腹を括った。
「その…"ナイト"のことでご相談が…」






「待てってゆわれてもよ…」
ヴェルサイユ風な豪華なソファーに、空月はその大きな身体を沈めながら呟いた。

(暇すぎんだろっ!!)

「つーか説明なしとかどんだけ俺放置なんだよ!!」
自宅のリビングの数倍はあろうかというほどの広さに叫ぶが、虚しくもその声は吸収されるだけ。いっそのこと、山彦でも返ってくれば、まだ暇潰しになるというもの。そんなことを考えていたせいか、妙な山彦が返ってくる。

「お兄ちゃんだれ?」
自分の独り言を聞かれていたことに羞恥心を覚え、真っ赤な顔で山彦の正体を探す。

「ここ。…ここだってばお兄ちゃん!」
辺りを見回すが、声のみ。
疑問符を頭一杯に抱え、正体不明の声への対処に困り果てた空月を見計らってか、真っ黒なマントが翻り、正体が明らかとなった。


「………誰だ?このガキんちょ?」


そう、正体は小さな子供であった。年齢は10歳かそこらといった外見。クルクルした栗毛は、少なからず幼なじみの一帆を連想させる(まあ、後者の髪はパーマなどによるものだが)。

瞳は綺麗なブラウン。ニコッと笑った時に見せた歯は、一本だけ欠けている。

「こんにちはっ」
ぺこりと、遊技会のような可愛らしいお辞儀をされ、思わず返してしまう。

「ボクのパパはね、ここのお屋敷の使用人なの。だからボクもここに住んでるの。さっきまで『透明ごっこ』して遊んでたの。お兄ちゃんはだれ?」
なるほど。声のみだったのは、その『透明ごっこ』が原因だったのか。名乗ろうと思ったが、まずは自分が人間であるということを明かさなければならない。いや、それよりも前に、聖夜との関係を言った方がいいだろうか。思案に暮れていると、少年の肩からひょこり、と目に痛いくらいのピンク色をした猫のぬいぐるみが顔出した。


「見ない顔ね…見習いガヴン?」
「わっ!!…ぬ、ぬいぐるみがっ…しゃべった!?」
その言葉に眉を(書いてはないが、その辺りを)クイッと上げたのを合図に怒濤が始まる。

「失っ礼ね!!ぬいぐるみがしゃべったらいけないの!?いけない法律でもあんの!?ないわよね!?あるワケないわ!!それとも何!?アンタの故郷じゃ、ぬいぐるみもしゃべらないくらいの田舎なの!?ていうかだいたいあたしぬいぐるみじゃな―」
「まあまあ、その辺にしなよ。この子ビックリしちゃってるよ?」
どこからともなく、鮮やかな水色をした鳥のぬいぐるみが、現れ、マシンガントークを遮る。

「初めまして。僕はマヤと申します。この五月蝿い子は、ユート。で、下に隠れてるのが、エメロン」
パッと少年の足元を見ると、モコモコした生地の黄色い羊のぬいぐるみが顔だけ覗き見をしていた。

「うるさいは余計よマヤ!!」
自身の紹介に納得がいかないらしく、浮遊するマヤに引っ掻こうと飛ぶが、ヒラリと交わされる。「きゃん」という悲鳴も無視し、空席である肩に止まる。

「今日客人は来ない筈だけど…誰かと一緒に入って来たのですか?」
「あ、…えと…聖夜…と、」
ぬいぐるみと話す日が来るなど、考えもしなかった空月は、口をモゴモゴさせながら答えた。

「聖夜お嬢様!?…もう任務から戻られたのか……では君はご友人ですか?キツい言い方かもしれないけれど、いくらご友人と言えど、"ここ"は易々と来てはいけませんよ。たまたまご主人様が居らっしゃらなかったから良かったものの…」
「あ、いや…友人…つーか…その…ナイトになった…つーか…」
違和感を感じつつもその単語を試しに出してみた途端、二つのぬいぐるみはそれぞれが反応した。

「はぁあ?アンタが聖夜お嬢様のナイトぉ!?んなワケないじゃない!!そうやって引っかけようたってそうはいかないわよ!あたしそこまでバカじゃないもん!!」
「聖夜お嬢様は…"あの時"以来ナイトの件はどの良家からも断わり続けてきたのに…君は一体どこの家柄なんです?」
マヤの妙な単語にひっかかり、鸚鵡返しに尋ねようとしたが、ビクリ、と一瞬跳ねた後、マヤ達は床に転がって動かなくなってしまった。




「え…!?」
唯一、動いたのは、少年の唇にそっと触れている人差し指だけ。その口角が丁寧に上がるものだから、確信めいたものが胸をつかえる。

「お兄ちゃん…聖夜お姉ちゃんのこと、知りたい?」
空月は、黙っていた。本来の空月ならば、意地を張って否と答えるが、出来なかった。知りたい…でも、そんな格好の悪い台詞は、吐けない。情けなくも、自分よりも年下な人物の問答にすら答えられない。いや、答えたくはないのだ。

それを察してか、少年が柔らかく、ふわりと笑った。






「聖夜…今…なんと言った…のだ?」
「ボケて耳まで遠くなったのかよヴェリー。"ナイト"っつったんだよ。な・い・と」
引きつった片方の口角が、またピクリと反応するのを、聖夜は遠目で確認した。
自身に言い聞かせた。問題は、"これからだ"と。

「ま、…まさか…聖夜―」
「まあ素敵ですわ聖夜さん!!やっと心を決めて下さったのね!」
よろけて椅子から転げ落ちそうなヴェルディを無視し、メビウスが吉報だ、とその白い肌を紅潮させるほど興奮する。

「私はてっきり、ナイト魔女になるものだとばかり思っていましたが…そうですか!やっと"ナイトと契約を結ぶ決心"をしてくれたのね?嬉しいわ!」
ああ、と頭を抱えたい気持ちになったのは、聖夜一人。もう一人、メビウスのナイトである紫邑だけが、その微妙な変化に気付く。そして、またメビウスの暴走を止めに入った。

「メビウス様…あの…」
「私は紫邑のようなしっかりした方がお似合いだと思うのですが…あら、でも聖夜さんは私と違ってしっかり者ですし…困ったわね、どうしたものかしら……早速占いでちょうどよい殿方を選ばなければ…ねえ紫邑?」
「ですから…聖夜お嬢様は…もしかしたら、既に―」
「ならん!ならんぞ聖夜ぁあぁあああ!!!!」
気付いてもらえたか、と肩の重荷が軽くなりかけたが、それよりも重たい声が轟く。

「ヴェルディ兄様…あの…」
「そりゃあ……ナイトがいれば危険な任務も…だがっ……だが良いか!?男とは皆獣であってだな……いくら育ちのいい良家と言えど…」
「テメェが一番獣だろ」
唾でも吐きそうなルル。またも痴話喧嘩が勃発する。

「なっ…何を抜かすか!?」
「テメェが聖夜にとって一番"危険"だって言いたいんだよバカヴェリー」
「何が危険なものか!?むしろそのような障害から我が愛妹を守ってだな―」
「だぁから…シスコンも度がすぎると変態だっつってんの」
はぁ、とため息が見えそうなほどの量に、プチリ、と血管の切れる音。

「百歩譲ってシスコンは認めるが…ロードを変態呼ばわりとは何事だ!!!!貴様の血液全て飲み干してやろうか!?!?」
ギラリ、と牙が伸び、本当に噛みつく勢いなヴェルディは、綺麗にセットした髪が神経同様、逆立ってしまっていた。

「別にいいよ。だってニンニク注射打ってきたし」
ケロリ、と。むしろ、はい召し上がれとさえ聞こえてきそうである。ニンニクという単語に、ヴェルディは床に崩れ落ちる。

「きっ…ききき貴様っ…なんて卑劣な!!というかあんなものを体内に入れるなど正気の沙汰ではないぞ!!!!」
「ヴェリーの好きな血だよ?どうしたの?飲まないの?ほらほら」
ジリジリと近寄るルルに、抜かした腰を後退りして遠のく。

「や、やめろっ!!来るな!来るんじゃないルル!!うわぁあぁあああ!!!!」
マタタビを見つけた猫のように飛びつくルルに、今度は紫邑がため息を漏らす。

聖夜は、あまりの事態の収拾のつかなさに、自棄になり、つい、叫んでしまった。

「じ…実は…もう契約済みなのです!!」






ガシャン、高級そうなティーカップが、割れた。
気の利く紫邑が、メビウスが零した紅茶を即座に片付けないのは、驚愕のため。普段から気の抜けたメビウスだが、一段と締まりのない顔でいるのも、驚愕のため。

じゃれ合う猫のように取っ組み合いを始めていたルルとヴェルディが、そのまま静止したのも、勿論、驚愕のため。


しまった、と。

口を慌てて手で塞ぐが、後の祭り。

慎重に事を運ぼうとした聖夜にとって、自分自身で驚いたのは、言うまでもない。


「あ…あの…」


弁解を、…否、意味がない。事実なのだから。でも、だからと言って、唐突ではあった。




特に、

「わぁあぁあああぁあぁあああ!!!!」

ヴェルディには。





「聖夜っ……そんっ……俺にっ……何故俺に一言いわない!?!?何故っ……」
「兄様…これには事情が―」
「そんなものっ…聞きたくはない!!聖夜…お前はたぶらかされたのだろう!?!?そうなんだな!?そうだと言ってくれっ!!」
末期症状のように身体を震わせながら、聖夜の肩を揺らす。だが、返事は無情にも、否定を。

「ち…違います…」
「嘘だ!」
「私がっ…私が言ったのです!"ナイト契約をしないか"と!!」
むしろ、たぶらかしたのは、この自分である、とさえ。
だが、愛しの妹からそんな言葉が、出るとは、まして真実であるとは思わないヴェルディは、「正直に言え」とさらに答えを要求する。

途端、ヴェルディはカクン、と膝から崩れ落ちる。ふ、と長いテーブルの先を見ると、メビウスが唇に、その細い指を一つ当てている。


(………"口縫い"…)

直感でメビウスの技によるものだと分かる。


「あーあ。ヴェリーも修行が足んねぇなー。口縫いまともに受けちまうなんて…よっぽどショックだったんだなー」
ルルは、呑気に床に伏せる主を、面白がって指でつつく。

「ルル。ヴェルディには、後でよく説明をしておいてあげて下さい」
自分よりも背丈のあるヴェルディを、ひょいと担ぎ、窓を開ける。くるり、と首だけ向け、ニヤリと一笑い。

「仕方ねぇなぁー。"貸し"だかんな?聖夜ー」


それに慌てて頭を下げる。前のくだりを見る限り、喧嘩の多そうな二人だが、実際の所、ヴェルディを説得出来るのは、ルルだけであった。付き合いの長さが伺える。

「聖夜さん。こちらに、」
「………はい」
ナイトに、空月に、非はない。それをどう説明したものか、と近づいても、顔を上げれずにいた。
が、そっとあの整った指が自身の顔に近づけさせる。


「あらあらまあまあ。なんて顔なさるの?私が怒っているとでも?……確かに驚きましたわ。でも、貴女が聡明なのは存じてます。だから、」
にこり、と。自分にない種類の笑顔だった。

「貴女を信じます。ですから、もっと自信を持ちなさい。胸を張って、その方を"自分のナイトだ"と言ってあげなさい」
「……はい。ありがとうございます」
いつも、この人だけには敵わない。快くそう思える。



「でも…困りましたわねぇ…」
問題が未だ山積みなのを思い出したように、零した紅茶を無意識に片づけながら呟いた。








少年はどこから出したのか、子供用の可愛らしい椅子に腰を落ち着け、余った足をブラブラさせていた。

「聖夜お姉ちゃんはね、この家の第十三子女なの」
「……じゅ、十二人も兄妹いんのか!?!?」
驚愕に身を乗り出すと、何を言い出すのか、といった顔で逆に聞かれる。

「縁を切ったご子息さまもいらっしゃるから、正確には十二人じゃないけど……普通だよ?」
ああそうか、合点がいく。"こちら"はきっとそうなのだ。この先人間であるというカミングアウトをしなければ、一々驚く羽目になる。

「あ…いや、実は俺…、」


ところが少年は、

「あ!そっか!お兄ちゃんの方じゃ普通じゃないかっ」
と。まるで自分が、人間だと承知のような…


何故知っているのか問おうとするが、先に補足を加えられる。


「こっちはね、一夫多妻制なの。だから兄妹全員半分しか血がつながってないの。それで、貴族だったりすると、兄妹の中で優劣がつけられるの」
「………優劣?」
「本当は、天万家は、十二人しか子供を持っちゃいけない規則だったの。十三番目は不吉だからだって。でも、聖夜お姉ちゃんは生まれたの」
意外な事実に、目を大きくすることしか出来ずにいた。少年はまるで物語でも話すように、続ける。


「この家はね、年とか性別とか関係なく、個人の能力で序列をつけられるの。それが、天万家現当主、天万白鷹さまのご意志なの」
「天万……はくよう?」
「ぼくのパパはその白鷹さまに仕えてるの。だから色々聞くよ。ご子息さまの話とか、ね。今日だって、いらっしゃってるよ?」
よ、と椅子から降り、手鏡のようなものを取り出し、開いた。すると、そこから映像が映し出される。

「第三子女・メビウス=ブロン様。そのナイト、鬼族の紫邑。これは、第四子女・ヴェルディ=キアーラ様。そのナイト、生青族のルル=ロズリーヌ=ラペルトリ。なんで集まったか、分かる?」
なぞなぞだ、と年齢相応な顔をしてみせる。違和感があったのは、その不自然さのせいだったが。




「お兄ちゃんのためだよ」
「……俺?」
「七番目以降の子女は、勝手にナイトを決められないんだ。第六子女以上の"三人"の許可がいるの。もし……もし許可が下りなかったら…お兄ちゃんは、死んじゃうよ?どうする?」
にっこり、と。
言葉に、ではない。その笑顔に寒気がした。







「……私と、ヴェルディの二人はいいとして……問題は、"あと一人"ですわねぇ…」
「……姫千螺様はいかがでしょうか?当主としての権利は剥奪されましたが、"ナイト許可"の権利ならば、あるかと、」
紫邑は、思い出したように提案するが、諦めたような溜息が返ってくる。

「……確かにその権利はあるけれど、彼女は……そういったことには関心がありませんし……何より、"天万家との関わり"を嫌っています…困りましたわね…」
適任という適任が浮かんでこず、思案に暮れる。







「それって…どうやったら認められるんだ?」
「あれ?こわくないの?…おもしろいねお兄ちゃん」
怖いのはむしろお前だ、と溜息で返してやる。


「なんか、この家の決まりとかよく分かんねぇけど、ナイトになっちまったからには、認められるしかねぇんだろ?」
空月自身、不安がない訳ではなかった。だが、不安がってしまったところで、事後であるのは変わらず、前進するしかない。だから、その方法を問うつもりだった。

「……似てる、ね。お兄ちゃんは」
「…あ"?…誰に?」
くるり、向きを変え、窓に呟いた。


「ユーリ。ユーリ=ダヴイドフ」
言葉に窮し、ただ黙って見ていた。






「聖夜お姉ちゃんの前・ナイトだよ」

『大切にしていたものは…─昔無くしたよ』
居ない筈の、聖夜の自嘲気味な笑顔が、蘇る。


「聖夜お姉ちゃんは、怖いんだよ。また、ナイトを、彼のように、なくしてしまうんじゃないかって」

『私は貴様を戦いに巻き込みたくはないのだ!元の生活に、戻ってほしいのだ!』

必死に、縋るように、頼んだのは、もしかして―


「…お兄ちゃんは、お兄ちゃんは死なないって約束できる?お姉ちゃんを一人ぼっちにしないって約束できる?」
人は、いつか死ぬ。それを痛いほど分かっているのは、自分だった。出来ぬ約束は、喉から出かかっていた。

だが、その言葉を、消した。


瞳を瞑り、聖夜のあの、一度だけした穏やかな笑顔を、思い浮かべてみた。




「死なねぇって約束は―……できねぇな」
「…え?」
「でも、アイツを守る約束はできる」
「……"死んでも守る"?」
「いや…守って、俺も死なねぇ。俺は、」

親父じゃねぇ。親父とは、違う。


「自分犠牲にして、大切な奴泣かせるくらいなら、死なねぇ。そんで大切な奴は、死んでも守る」
きょと、とした緩んだ顔は、すぐに愉快そうな笑顔に戻る。そして、初めて声を出して笑う。


「あはははははっ…ほんと、お兄ちゃんおもしろいね!」
笑われたことが心外で、カチンと頭に来る。

「どこがおもしれぇんだよ!!」
「だってさ、ゆってること、矛盾してるしっ」
「うるせぇな!!だいたいテメェさっきから何者なん―」
突如、ぐるり、と視界が回る。

力が、抜ける。焦点が定まらない。

ちらり、と一瞬視界に入った少年は、また例の人差し指を立てていた。





「てめぇ…」
「あれ?まだしゃべれるの?すごいね。言霊<スペル>なしだと、やっぱ威力弱いかなぁ…それとも、お兄ちゃんが、"特別"なのかな?」
「…なに…言って―」
「罪人の口を縫い、瞳を閉じ、耳を塞ぎ、全てを奪う。『口縫い』」
覚えているのは、そのまま床に崩れ落ちる、途中までの風景と、少年の瞳が一瞬、碧色に反射したものだけだった。









「―…、」
「どうかしまして?紫邑」
「…いえ、気のせいかもしれません…ただ、」
いやまさか、と頭を振る。だが、すぐに疑心が間違っていたことが分かる。

「っ!!…誰かこちらに来ます」
危険を察知した紫邑はメビウスより前に出て、浮き上がる陣に身構える。

「……確か、敷地内ではある程度の魔法しか使えない筈では?」
同じように構える聖夜が、紫邑に尋ねる。

「その筈ですが……、もしかしたら強硬派かもしれません。……!?…あ、貴女は、」
だが、移動してきたその人物を見るや否や、紫邑は床に深々と跪いた。そして、紫邑は床に坐したことで視界が開けたメビウスは、目を丸くした。

「まぁ!セシリアお姉様!?」
聖夜は、紫邑と同じように坐し、思考回路を全開にしていた。

(な…何故……"第一子女であるセシリアお姉さま"がここに…!?)

直々に、会うことも出来ぬ人物が、目の前にいることで、混乱が脳内を占めた。ましてや、"少年"のような姿であれば、なおのこと。



「し、失礼しました!まさかお越しいただいているとは露知らずっ…」
「…紫邑」
背からは想像できないほど大人びた声に、ビクリ、と聖夜まで肩が跳ねる。

「いい反応だ。さすが、第三子女附きのナイトだね。メビウス、久しぶりだ。…確か前回の集会以来…だったかな?」
「は、はい…あの…大お姉様は…何故ここに?」
「ん?ああ、僕かい?実はこの子を届けに来たんだ」
チラリと視線を投げると、そこにいたのは、気を失っている、

「……空月!?!?」
安否が気になり、思わず駆け寄る。
息をしているのを確認し、安堵する。
が、目上の者の前で、バタバタと見苦しい行動をしてしまった自責に襲われ、また跪く。

「……実は、大お姉様……この者は、」
「まずは、初めまして、だね。聖夜。いつも御簾越しだったから、ちゃんと顔を見たことはなかったけど…綺麗になったね。それと、この子のことはもう本人から聞いたよ」
ドキ、と心臓が跳ねる。ふわり、と、軽く小さな手が頭に触れる。少し目線を上げると、同じ位置まで顔を寄こし、満面の笑みをしている。

「とってもいい子だね、この子は。大切にしなさい」
「は……はい!!」
さてと、と立ち上がり、指をパチンと軽快に鳴らす。陣から、カラフルなぬいぐるみ達が現れる。

「皆、帰るよ。ああそうだ、メビウス。許可証は僕が書くから、安心して。今回のことはお父様には、僕から話しておくよ。じゃあね」
ポン、と現れた箒に跨る。文句を漏らしていたぬいぐるみも慌てて後を追う。
嵐の如く、現れて消えた本人の、話はいないから出来るもの。

「ふー…相変わらず、ですわね。大お姉様は…」
疑問に思うのは、"空月がどうやってあの人物を納得させたのか"だった。

「どちらにしても、良かったですわね。聖夜さん」
「………はい」
改めて、窓から見える空を見るが、そこには鳥一匹飛んでいなかった。









「セシリア様ぁー。なーんであんな田舎者許可したんですかぁ〜!?」
納得いかない、と頬を膨らませるユート。

「しかもー、セシリア様のこと"がきんちょ"とかゆって!失礼ったらありゃしない!セシリア様は"仕方なく"この御姿だってのに!!ねぇ?エメロン?」
「……………う―」
「返事が遅いっつーの!!このノロマ!!!!」
「……………痛い、よ………ユート」
「あーもー!ほんっとアンタと話してると日が暮れるわ!!イライラさせないで!」
「あんまりエメロンに当たるのは止めなよ。可哀そうだろ?」
痛い痛いの飛んで行け、とエメロンのふわふわした頭を撫でるマヤ。

「なによ!?!?全部アタシが悪いの!?そうやってみんなアタシを悪者にして…どっちが可哀そうなのよ!だいたい、マヤはエメロンに甘すぎなのよ!この間だって―」

三匹が、騒いでいる中、セシリアは、独り言を空にぼやいていた。




「不思議だね、彼。……そっくり、」
「……セシリア様」
「ほんと、懐かしいね。ユーリみたい……」


(覚えてる?……君も、ユーリも、彼と同じこと、言ったよね…)



何色も交ぜたカンバスのような夕陽に照らされている悲しそうな笑顔に、三人は、黙ってしまった。













誓うという行為は

  祈るそれと、


   似て非なるものであるのに



The second promised




色々な人が一度に出て来ましたね。
聖夜さんの過去が色々と分かったような分からないような…

相関図