who is it to decide Way ?


knight ...05

who is it to decide Way ?


いつの間にか、
 
 歩は進み、
  
  後ろには

   道ができていた。



「どうぞ、通常勤務にお戻り下さい。そして、"彼"を如何に育てるのか…ご検討を」

返事は、なかった。返事など、もとより期待はしていなかったが。

「…あなたも、」


後に続く言葉は、侮蔑なのだろう。けっして、自嘲ではなく、自然と笑みがこぼれた。

成る程、同僚を庇うのか。
その仲間思いな感情を、怒り以外にも上手く表に出せるようになれば、彼も社交的になれるというのに。いや、だからこそ面白いと言えるのかもしれない。

ふと気付くと、以前の職場での癖が、また再発していることに驚く。

彼女にとって、他人とは永久に、"研究対象"であった。嘆くのであれば、前任を。自分は教育者には向かない、と、言われたが、許可したのもその人物である。

今度こそ自嘲的な笑いが溜め息と共に零れた。






『こうちょぉおおぉぉおおっ!!』
「あらあら。どうしたのかしらそんなに凄い声を出して、」
『来訪者チェックしてたら急に魔物になっちゃって校内に入っちゃったよぉおおぉぉおお』
「…そう。子機で校内の生徒に知らせて下さい」

2時から会見の予定になっていた者の為に、門衛を向かわせたが、どうやら刺客の仕業らしかった。
"立場上"命が狙われるのは慣れているが…これからは外壁の強化もしておかなければ、と思案した。

「教員各位、執行部の生徒で侵入者に近い者は、始末を。他の者は、生徒たちを守りなさい」






「…なんだ!?」

空月は窓に張り付いた。

「…どうした?」

何か珍しい物でも見つけたか、と近寄る。

「どうしたじゃねぇよ!!なんだよあの化けもんはっ!!!!」
「─‥ッアレは……」


ようやく清が侵入者に気付いた頃に、紫色の光源物が近寄った。そこから聞こえた声は、先ほどまで話していた人物。だが、上品さは何処にもなく、ドスさえきいている。

『教員各位、執行部の生徒で侵入者に近い者は、始末を。他の者は、生徒たちを守りなさい』
「コードネーム イルダーナ。清 沙那。侵入者に一番近いと思われますので、向かいます」
『そうですか。出来るだけ生け捕りにするよう。他の者は引き続き生徒の誘導を』

淡々とこなされる会話について行けず、覚醒したのは清が窓の縁に手をかけて身を乗り出しているのを見てからだった。

「ッちょ、先生ここ3階─」

言うより早いか、清は宙に舞っていた。慌てて追いかけるように縁に手を掛けると、くるり、と一回転した後、静かに地上に降り立った。

そして、いつの間にか両手は日本刀を二本握っていた。

「『冠羽<レグルス>』…ハイハイっと、悪いけど、校舎には入れる訳にはいかないよ。あと、洗いざらい吐いてもらうから、そこんとこよろしくね」

2つの刃が光を走らせた。

ずり落ちる眼鏡を上げながら、戦闘中は邪魔になることを再認識した。だからと言って、戦闘になったら一々外すというのも、何か不恰好である。度が入っていない以上、本来の意味をなくしてはいるが、今更"伊達でした"といって外すのも気恥ずかしい。煙草が止められないリリアンの気持ちが少しだけ(本当に少しだけ)分かった気がした。


「…にしても、アンタ言葉分かんの?」

黒い溶岩のようにボコボコと音をたてながら、2・3メートルにまで身体が変形するモンスターを、ゆっくりと見上げた。

「ヴァカにするなよぉぉおおおぉぉ俺をそこらの下級モンスターと一緒にすんなやぁぁああぁぁああ」
「…へぇ。喋れんのか」
「あ"んん!?!?」
声が、ずれた。
というより、口が切られ、発する場所がずれた、と言った方が正しい。

「てべぇぇぇええぇぇ」
「そりゃあ気の毒だな」
癖になった、仕草をした。眼鏡が光を反射する。

「命令は『生け捕り』だ。喋れる以上、"どんな手段を用いてでも"吐かせるだろうよ。そういう人だ、あの人は」
「皆殺しだぁぁああぁぁああ」
伸びきった腕を、質量に反して器用に鞭のようにしならせ、目標を清の頭に絞る。が、それでも遅かったらしい。彼女には。


「成る程。アンタとんだ低脳だな。一言目には強さの誇張。二言目には、"殺す"。そりゃまんま、三下の台詞だよ」
否、避けただけではなかった。既に切っていた。

「ぁぁああぁぁああてめぇまたぁぁああぁぁああ」
勝負はついたかに見えたが、先程も含め、二つの斬撃を受けたにも関わらず、ダメージはなく、鈍い水音をたてながら元に戻ってしまっていた。

(…液体型、か)

「ひゃはははははははは剣なんかじゃ俺は殺せねぇぞぉぉおおおぉぉ」
「ふー…そうか。そうだな。三下は撤回するよ」
刀はやはりいつの間にか姿を消し、降参だ、とでも言うように空の手を左右に広げた。それに満足したように、修復したばかりの口で大いに笑う。

「ひーひゃはっはははは!!そうだよ俺はなあ"!?」
(存在するか分からないが)喉が震える。下部を見れば、空いた片手が、身体に食い込んでいる。

「てめぇ血迷ったかぁあ?俺はな、なんでも取り憑け─」
「知ってるよ。"そう"やって、ここまで来たんだろ?でもさ、アンタ、あたしを喰えんのか?」
「─っ!?」
痛い。感覚が教えたのは、それが初めだった。次にやっと、感覚の正体が分かった。
"熱い"のだ。


「こんな"熱く"ちゃ、喰えないだろ?」
「ぁぁああぁぁああぁぁああぁぁああ」
いくら打撃などが効かないとはいえ、弱点はある。というより"そこしかない"。
人間で言う心臓に値する、"核"を壊すしかないのだ。勿論、間抜けに視覚しやすいような色はしていない。


「せんせーさー、すっげぇ面倒くさがりなのよ。第一この命令だって面倒だったんだよ?本当は。そんでもって"処理"に一番困る液体型のモンスターが来ちゃったりするもんだから、もう考えるのも面倒になっちまった訳っさ。分かる?」
聞いているのか、と確認するように、温度を更に上げる。

「ぁぁああぁぁああ溶けぇぁぁああぁぁああ」
「本当は、核探して斬ればいい話なんだけどさー。それスッゴい時間かかるし、面倒なのよ。だからせんせー、"核毎燃やす"ことにしましたー」
悪いね、と苦笑いをしながら頬を掻いた。

それは、生徒の為を想うような、まるで"当然"のような。寒気が全身を駆けた。


「まっ待てッ!!俺を殺したら誰からの刺客か分からねぇぞ!?!?いいのか!?」
ピタリ、と熱さが和らぐ。しめた、と思ったのか、饒舌になった言葉は止まらず。


「生け捕りが命令なんだろ?だったらよぉもう暴れたりしねぇから…そうだ、アンタ側に付いてやってもいいぜ!?!?」
ふ、と漏れた空気は上がった口角から。交渉成立のような、笑顔だった。

「やっぱり、アンタは三下じゃないね」


隙を見せたその瞬間、核を一気に清の手に移動させた。乗っ取る、と言っても、身体全てを相手に入れる訳ではなく、中心である核だけを相手の体内に入れることで成し得るのであった。そしてこの期を、待っていたのだ。

「な…んだ?核が…動か…」
「『天笠』」
清とて、それは同じだった。

「てめぇッ…最初っからッ…」
焼き殺そうとしていたのではなく、"乗っ取る瞬間"を待っていたのだった。

「アンタが言ったんじゃないか、命令は『生け捕り』だって。低脳の割には物覚えがいいじゃんか」
「くそっ…」
「無駄だよ。もう術は完成してる」
キン、と金属音にも似た高い音と、蒼い光を放ち、モンスターの身体が分離しながら地面に落ちていく。


「直ぐに命乞いをするような奴は三下なんかじゃあない。アンタは、三下以下だ」
堕ちゆく意識の中、視界を掠めた。笑いが、独りでに漏れる。


「…何が可笑しいんだ?」
「核は…一つだ…。だがな、力は僅かだが、俺は"コピー"も作れるんだぜ?」
「っ!?」
黒い雫が走り出した。少量なせいか、速さは以前よりも、数段速い。片手で術をかけながら、もう片方での攻撃は、直ぐには出来ない。追い掛けるが、コンマ数秒、間に合わない。

「アンタはその"三下以下"に生徒を殺されるんだぜぇぇええぇぇ」
何時から居たのか、腰を抜かした生徒が、壁にもたれかかっている。その方向目掛け、止まらない。

「逃げろ!!」
言って直ぐに反応出来るほど、敵との距離は遠くはなかった。







「おらぁぁあああ!!!!」

敵でも、自分でも、狙われている生徒でもなく、叫んだ。同時に黒い何かが、その生徒を遮る。敵は、勿論、一直線に飛び込んだのだから、その何かにぶつかった。
その瞬間を逃さず、出した刀で黒い物毎切った。

核は、二・三度痙攣した後、果てた。

それを確認すると、疲れがどっ、と出る。
乱入者を見れば、更に呆れのような疲れが上乗せされた。


「……参宮、お前なぁ…」
「…あ、せんせ…敵は?」

間の抜けた顔を見れば、肩が余計に凝る。


「…斬ったよ。つーか、お前どうやって、」
「どうって…せんせーと同じように─」

何を言うか、とさも当たり前のように天を指差す。


「はぁあ!?!?3階だぞ!?アホか!!」
「あ、あああほって言うなよ!だってせんせーだって─」
「あたしゃ魔法使ってんだよっ!!」
生身で、3階から飛び降りるなど、聞いたことがない。

「マジかよ!?…あれ?でも俺…中学の卒リンん時とか…普通にやってた…ような…」
「あーもー…」
疲れた、とグラウンドにいることを忘れ、腰を下ろす。



「ぁぁあああぁぁああ!!!!」
素っ頓狂な空月の声に、ビクン、と肩が跳ねる。


「今度は何─」
「俺の学ランがぁぁああぁぁああ………」
そう、見るも無残になった黒い遮蔽物は、空月の着ていた学ランだったようだ。
悪い悪い、と平謝りをしようとした清よりも先に、空月に隠れてしまっていた人物が(本人としては)大きな声で謝った。


「ごっ…ごめんなさ…い…」
その声と、自分の(まるで迫っているような)体勢に気付き、赤面しながら離れる空月。


「ぁ、いやこちらこそ初対面なのにこんなこと…って別にやましい気持ちがあってしたワケじゃなくて仕方なくっつーかっ…」
「とりあえず落ち着きなよ、参宮」
見るに耐えないうろたえ振りに、つい注意をしてしまう。

「怪我はないか?心愛」
そう呼ばれた少女は、俯きながら頷く。栗色の髪で顔がよく見えない。

「…………」
じっ、と刀傷のついた制服を見て、手をかざす。すると、白い、というより透明に近い白光を発し、みるみる前の状態に戻ってしまった。



こういう形での魔法を初めてお目にかかった空月は、口をあんぐり開けていた。

「すっげぇ!!直ってる!!ありがとな!」
目の合った少女は、何故か何度も小さな声で謝罪を述べながら、危うい足取りで去ってしまった。



「ふー…ま、何にせよ、お手柄だったな参宮─」
誉めようと視線を投げかけると、体育座りをしながら地面を指で掘る巨大。



「…え?…ちょ、参宮くーん?」
「もうだめだ。転校する前からこんな怖がられてんじゃ俺のウキウキスクールライフも終わった…」
なんだそんなことか、とまた肩を落とす。

「…あのなぁ、さっきの子は、心愛っつって、スッゲェ人見知りなのー。お前じゃなくてもあんな態度だから、安心しなって」
「……………………ほんと?」
さっきまで勇ましく敵から少女を守っていたのが嘘のような、情けない顔。本当だ、となだめるように言えば、満面の笑みになる。


「でもさー中学生がなんでこっちの校舎に居たんだろーな?」
はて、と今度は思案を始める空月の傍ら、付き合いきれない、と清は事の次第を上司に報告していた。







そんな様子を、興味深そうに何人もの生徒が見ていたのを、空月は知らなかった。


「…見たか?」
「見てましたよ。ずーっと、モニターでね。…でも、へぇ…彼が、ねぇ…」

楽しそうに笑う者。



「……フン。貴族の犬がよォ…調子に乗りやがって。おい、ドコ行くんだ?」
「お前も知ってるだろ。俺は"貴族サマ"が嫌いなんだよ。その"犬"も、な」

敵対する者。



「……どうかした?」
「…別に」

忌み嫌う者。



「どうやら、馴染むのに時間は要らないようですわね…」

目論む者。




人為的に、環境の変化を強いられても尚、彼は言うだろうか。

「俺が決めた道だ」と。





確かに、

 歩んだ記憶はあるが、

  その主が、

  己だと、言うにはまだ
    その道は不確か過ぎた。

who is it to decide Way ?



敵が来ました。
空月戦ってませんね。ギリギリ活躍しました良かったね。

相関図